アルコール殺菌消毒・抗菌と除菌ってどう違うの?

アルコール消毒、殺菌・抗菌と除菌の違い

新型コロナウィルスの殺菌消毒用のアルコールが全国で不足し、代替えを求めて除菌や殺菌消毒についてかなり情報が錯綜しています。正しく情報を取り入れないと、感染から身を守れず、命に関わることもあります。新型コロナウィルスを「正しく怖れる」ために、落ち着いて情報を取捨選択し、家族と自分を守ってください。

目次

新型コロナウィルスの性質

新型コロナウィルスはエンベロープという皮脂膜を外側に持ってるウィルスです。エンベロープは70-83vol%のアルコール消毒または、石けんでの20秒以上の洗浄で除去することができます。今は、この2つの方法が正しいウィルスの除去方法でそれ以外のものを自己判断で取り入れるのは安全ではありません。

そもそもウイルスというものはウィルス自身が勝手に増えていくものではなくて、増えていくために、体の細胞の中に入り、遺伝子をコピーしてウイルスのたんぱく質を作って新しいウイルスを作り細胞の外へとでてゆきます。これを短時間で繰り返し起こすことで体内にウイルスが増殖してしていきます。

滅菌・殺菌・消毒・除菌・抗菌って何が違うの?

これらの言葉は一見同じ意味に捉えられるかもしれませんが、それぞれ意味が全く違うものになります。「使われる場所」や「使われるもの」で法律での定義もそれぞれ異なります。滅菌、殺菌、消毒、除菌、抗菌について以下に簡単にまとめてみました。

滅菌

「菌を全滅させる」
菌に対しては最も厳しい。 すべての菌(微生物やウイルスなど)を、死滅させ除去する。
日本薬局方では「微生物の生存する確率が 100万分の1以下になることをもって、滅菌」と定義しています。 でも「私たちの身体を滅菌する」って効いたことないですよね?
これはあり得ないのです。なぜなら「私たちの手指を滅菌」と言ってしまうのは、体の細胞ごと殺さなければならないことになるので、これはあくまでもモノ、器具(医療器具)などの菌に対して「滅菌する」のです。例えば「滅菌済みガーゼ」は袋の中に生きた微生物が存在しないガーゼということになります。

殺菌

「菌をある程度殺す」
細菌を死滅させるのですが、どんな菌をどのくらい殺すのか?ということが決まっていません。例えば、一部を殺しただけでも殺菌といえるのですがこの言葉自体が、薬機法で「医薬品」や「医薬部外品」でしか使うことができないものです。仮にどんなに殺菌できる洗剤や漂白剤だとしても、洗剤などの「雑貨」に対して「殺菌」という言葉を使用できないことになっています。
 

消毒

「毒を消す。無毒化する」
モノや身体にくっ付いている「病原性微生物」を、死滅または除去して感染症を防げる程度まで菌を減らしたり、殺したり、感染力を失わせたりして「毒性を無力化」させること。消毒も殺菌と同じく、「薬機法」の専門的な言葉です。
「消毒殺菌」という言葉もよく聞きますね。薬物消毒、煮沸消毒、日光消毒、紫外線消毒、焼却消毒などの方法があります。

除菌

「菌を取り除く(菌の数を減らす)」
人体ではなく、モノや液体、空間(限られた空間)に含まれる微生物の数を減らすこと。法律上では薬機法ではなく、「食品衛生法」の省令に「除菌(ろ過等により、原水等に由来して当該食品中に存在し、かつ、発育し得る微生物を除去することをいう)」という規定があります。

生活用品で、「除菌」を謳うモノがたくさんあります。除菌の方法については、各分野で色々な意味づけをしていて、「程度の範囲」もそれぞれです。除菌ウエットティッシュなども一般的ですが、洗濯洗剤、台所用洗剤などもあります。これらは業界でそれを定義しています。例えば白物衣類専用の液体塩素系漂白剤ハイターは「殺菌」ではなく「除菌」を謳っています。
参照:

食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部改正について昭和61年6月21日衛食第116号)

「洗剤の除菌表示」に関する公正競争規約、施行規則及び解説 

抗菌

「菌の繁殖を抑える」
除菌同様、様々なモノ、生活用品に「抗菌」と訴求されています。「抗菌」はあくまでも「菌の繁殖を抑える」ものであって、殺したり、無毒化するものではありません。経済産業省の「抗菌加工製品ガイドライン」の中に、抗菌加工製品とは抗菌加工を施した製品のこととあります。ここでの「抗菌」とは「製品 の表面における細菌の増殖を抑制すること」とあり、「汚れ」「臭い」「ぬめり」「カビ」は範疇外となっています。

簡単にまとめると、

「滅菌」:菌を全滅させる
「殺菌」:菌をある程度殺す
「消毒」:毒を消す、菌を無毒化する
「除菌」:菌を取り除く、菌の数を減らす
「抗菌」:菌の繁殖を防ぐ

になりますが、滅菌、殺菌、消毒は薬機法で定められているもので医薬品や医薬部外品となり、承認許可がないといくら殺菌、消毒するものでも、それを公に謳って販売、流通させることはできないことになっています。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために必要なアルコール消毒液は、供給が追いつかず、各地の医療機関や高齢者施設から対策を求める声が出ています。

これを受けて厚生労働省は、やむをえない場合にかぎり、酒造メーカーがつくるアルコール濃度が高い酒を消毒液の代わりとして使用することを特例として認めることを決め、全国の医療機関などに通知しました。

具体的には、アルコール濃度が70%から83%の酒を対象とし、これより濃度が高い酒は、殺菌効果が落ちるため薄めて使うよう求めています。

この濃度に該当する酒はウォッカなどで、酒造メーカーでは、消毒液の代わりとして使用することを想定した製品の製造も始まっているということです。


新型コロナウィルス感染症の発生に伴う高濃度エタノール製品の使用について(改定)
事務連絡 令和2年4月10日付 厚生労働省医政局経済課 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課 厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課

手指用消毒用エタノールの代替え品である高濃度エタノールの製品の製造、販売等について、医薬品医薬機器等法の規制を受けない
当該製品を手指の消毒にしようすることが可能である旨を表示、広告等に記載して差し支えない
臨時的、特例的な対応

除菌、抗菌に関しては、近年になって宣伝広告等で見かけるようになりました。例えばウエットティッシュ。
これも実は、色々な種類があること、ご存知ですか?
よくパッケージを見ると、「除菌」というものと「消毒」という2種類があります。
これは全くカテゴリの違うものであり、
除菌:雑貨レベルで身の回りのモノなどへの除菌
消毒:薬用になるので手肌に使うものです。よって「消毒」としての効能効果が認められているもの、となります。

一見すると、どちらも手肌に使えそうですし、「除菌」のウエットティッシュを手に使っても良さそうですし、さらに「ヒアルロン酸配合」なんて書いてあるので、本当に手にも使えそうだし、使っちゃいそうですが…実際に手に使っていいとも書いていません。
*モノによっては除菌でも「化粧品レベル」で製造している場合は、手指に使えると記載があります。

新型コロナウィルスに関していえば、これらのウエットティッシュに効果があるという保証は一切ありません。
では、市販にある医薬部外品の「手指の消毒液」「 薬用消毒スプレー」は全て新型コロナウイルスに効果があるのでしょうか?

というと答えは、NOです。
今、ありとあらゆる怪しい「除菌」が流行っております。次亜塩素酸水が良い例です。
医薬部外品であっても「新型コロナウィルスに効果があるか」はNOなのですから次亜塩素酸水に新型コロナウィルスの効果があるわけありません。
とにかく、今の時点では、石鹸による手洗い(20秒以上)で物質的に菌を洗い流すこと、とアルコール消毒(70~83vol%)によって感染力をなくす方法しかないのです。

現在、新型コロナウイルスの感染拡大でアルコール消毒液の需給が逼迫しているため、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)が「界面活性剤(台所用洗剤等)」「次亜塩素酸水(電気分解法で生成したもの)」第4級アンモニウム塩としてウエットティッシュに含まれる塩化ベンザルコニウム等を用いた消毒方法について、新型コロナウイルスに対する有効性評価を行うようです。

これらは原則、モノに対しての消毒を想定しているそうですので、また手指とは異なるとは思います。続報に期待ですね。


参考:

https://jsda.org/w/03_shiki/a_yougo_1.html
https://jsda.org/w/web_jftc/sekkensenzai_27.html
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/human-design/downloadfiles/030224koukin(New).pdf

https://www.nite.go.jp/information/osirase20200415.html

https://www.kao.com/jp/soudan/topics/topics_105.htmlhttp://www.unicharm.co.jp/silcotwet/product/index.html

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この記事を書いた人

米大学でホリスティック栄養理学士号(Bachelor of Holistic Nutrition)の学位を取得。1994年より化粧品 /健康食品会社にて研究開発、薬事申請業務に携わる

いくつかの外資系企業を経て2007年に独立。主に外資系企業の薬事面をサポートする薬事コンサルタントとして活躍するなか、炭酸美容法についてもいち早く着目。

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