インターネット上には日焼け止めの成分について様々な情報があります。「植物オイルには紫外線予防効果があるので日焼け止めコスメの代わりになる」というのもそのひとつ。
例えばココナッツオイルは、海外をはじめ日本でも日焼け止めの代わりに塗るという方法で使用している方もいるくらいです。しかし残念ですが、これは今のところ全く根拠のない情報です。多くの植物オイルには確かにSPF1からSPF3くらいの効果はありますが、日焼け止めの代わりになるほどの効果はありません。

なぜ「植物オイル=日焼け止め」という誤解が広がったのか
なぜ植物オイルに日焼け止め製品の代わりになるくらいのSPFの効果があると誤解されてしまったのかというと、実験データを混同(インビトロ試験による吸光測定とインビボ試験によるSPF測定を混同)して解釈しているためです。オイルの吸光測定と肌でのSPF測定はイコールではありません。

植物オイルの酸化や肌への影響にも注意
しかも植物オイルのグレードによっては、太陽の光や空気、暑い夏の気温にさらされたときにどうなるのかわかりません。酸化の可能性もあります。活性酸素が発生する可能性もあります。そして一時的に肌にダメージを与えるかもしれません。確実なインビボ試験によるSPF測定があれば別ですが、すべての植物オイルが同じグレードではありません。その生成度合い、どこ産のものなのかによっても異なります。誤解を招きやすいのです。
話題のラズベリーシードオイルのSPFは本当に28–40
よく話題になっているものにラズベリーシードオイルがあります。オーガニックやナチュラル系のUVケアコスメにもよく配合されています。このラズベリーシードオイルはSPF28−40といわれています。ラズベリーシードオイルは、SPF28−40の日焼け止めと同じ吸光値であるというのは事実ですが、だからと言って日焼け止めとして働くという意味ではありません。
何度も言いますがインビトロ試験での吸光測定はインビボ試験でのSPF値とは同一ではないからです。よってそれがSPF値であると推定することはできません(Oomah et al., 2000)。

キャロットシードオイルにも同じような誤解がある
また、キャロットシードオイルもSPF効果があるという研究報告があります(Kapoor et al., 2009)。キャロットシードオイル(精油かキャリアオイルかはここでは不明)がSPF38−40あるという内容ですが、ただしこれは単独での試験ではなく、商品化された日焼け止めにキャロットシードオイルが配合されているというものであり、つまり他にも成分が入っているということを意味しています。こういうデータも間違った切り取られ方をすると、キャロットシードオイルにSPF効果38–40あるという間違った情報としてインターネット上に流れていくのです。

ココナッツやオリーブ、大豆オイルのSPFは?
ココナッツオイル、オリーブ油や大豆油についてはどうかといえば、SPFが8ぐらいあるといろいろなところで言われているのを見かけます。しかし、実際にはSPF1以下だということがある研究データには記載されています(Gause and Chauhan, 2016)。

植物オイルは“成分”としては優秀。でも“代用”はできま
植物オイルの中でも抗酸化力があるオイルは、日焼け止めコスメのひとつの成分としては優秀ですが、それ自体で日焼け止めになるわけではないので誤解のないようにしましょう。

補足情報|信頼できる文献と研究からの裏付け
- Kaur & Saraf (2010):植物オイルのSPFをin vitroで測定した研究
https://doi.org/10.4103/0974-8490.60586 - Gause & Chauhan (2016):ココナッツなどのオイルの実測SPFは1以下であることを報告
https://formulabotanica.com/not-use-coconut-oil-sunscreen/ - Ácsová et al. (2021):ラズベリーシードオイルのSPFは実測で2.6程度であると報告
https://doi.org/10.3390/cosmetics8030066 - Kapoor & Saraf (2009):キャロットシードオイルを含む製品のSPFが38–40との報告(単体評価ではない)
https://doi.org/10.1111/j.1468-2494.2009.00496.x
