波動に注目した化粧品の本当のところ
最近、「テラヘルツ波で細胞が活性化する」「むくみがすっきりする」「容器にテラヘルツ加工をしてある」など、ちょっと不思議なワードを目にしたことはありませんか?SNSやネット通販を見ていると、“なんだかすごそう”と感じる商品も増えています。炭酸化粧品の製造に30年関わってきた私が、テラヘルツ×化粧品の話題について、正しい情報をもとにやさしく解説してみます。
テラヘルツ波って何?
まず、テラヘルツ波(THz波)というのは、赤外線と電波の中間にある、とても微細な電磁波のこと。
私たちの目には見えませんが、一部の医療機器やセンサー、通信技術などに使われはじめている技術です。その中でも、近年注目されているのが「水に反応しやすい」という性質。生きものの体のほとんどは水でできているので、「体に何か良い影響があるのでは?」と研究が進められています。たとえば、東京農工大学では、植物の水の吸収や成長に与える影響をテラヘルツ波で測定する研究も行われています(出典:東京農工大学 プレスリリース 2025年7月16日)。
美容効果は本当にあるの?
では、「テラヘルツで肌にハリが出る」「むくみがとれる」といった効果は、科学的に証明されているのでしょうか?
答えは“まだよく分かっていない”が正直なところです。医学・薬学論文を集めたアメリカ国立衛生研究所(NIH)のデータベース「PubMed」によると、テラヘルツ波が皮膚細胞や神経細胞にわずかな影響を与えるという基礎研究(試験管レベル)はありますが、化粧品やスキンケアとして「肌がきれいになる」「小顔になる」などの効果を示す臨床データ(人での明確な実験結果)は今のところ確認されていません。
参考文献:
• Son JH. Terahertz electromagnetic interactions with biological matter and their applications. J Appl Phys. 2009;105(10):102033.
• Bock J et al. Effects of THz radiation on human keratinocytes. Radiat Res. 2010;174(2):227-36.
化粧品への“照射”は法律的に大丈夫?
ここも大切なポイントです。
もし「テラヘルツ波を後から照射することで、肌に良い変化が出る」と謳って販売した場合、
それは“医薬的な効果”を謳ったとみなされる可能性があり、日本では薬機法(医薬品医療機器等法)違反になる恐れがあります。
製造業者の立場からすると、すでに完成した化粧品に対して、販売者が勝手に“後から照射”する行為は、安全性・品質保証の点でも非常にグレーです。
ちゃんとした製造会社ほど、こうした不確かな方法は採用しない傾向にあります。もし「テラヘルツ波を後から照射することで、肌に良い変化が出る」と謳って販売した場合、それは“医薬的な効果”を謳ったとみなされる可能性があり、日本では薬機法(医薬品医療機器等法)というルールがあるので、製造業者の立場からすると、すでに完成した化粧品に対して、販売者が勝手に“後から照射”する行為は、安全性・品質保証の点でも非常にグレーかなと思います。まともな製造会社ほど、こうした不確かな方法は採用しないのではないかなと思います。
テラヘルツ加工された「容器」はどうなの?
一部では、「テラヘルツ鉱石を練り込んだ容器」「テラヘルツ波を放つ素材を使った化粧水ボトル」なども販売されています。
これらは、確かに目新しさがありますが容器から出る波動が肌に作用するという科学的な裏づけは、現在のところ見つかっていません。また、もしその素材が化粧品と反応して有害物質を出したり、内容物の性質に影響を与えるようなことがあれば、容器としての安全性や適合性の問題にもなりえます。ですが、その点についても、十分な第三者機関による検証データは確認できていません。

「効果があるかも」には要注意
美容の世界では、「○○波動で細胞が活性化」や「エネルギー共鳴でリフトアップ」など、難しい言葉が並ぶ広告も多くあります。ですが、“それっぽく見える”だけでは信用してはいけません。逆に、「分からないことは分からない」と正直に伝えてくれるブランドやメーカーこそ、信頼できると私は思いますし、正直品質が何よりの会社としての誠意ではないかと思います。
信じる前に、一度立ち止まってみよう!
今の時点で、テラヘルツ波がスキンケアや美容に対して確かな効果があるといえるだけの科学的根拠はありません。
そして、薬機法や製造安全管理の観点からみても、リスクのある応用方法が一部に存在します。
もちろん、これからの研究次第では、美容分野に応用される日が来るかもしれません。信じるものは救われる、という考え方もあると思います。
ですが、現段階では、“なんとなく効きそう”と感じたまま飛びつくのではなく、「本当に効果があるの?」「ちゃんと安全?」と立ち止まって考えることが、あなたの肌とお金を守ることにつながるはずです。
肌にふれるものだからこそ、きちんと知って、選ぶ。わたし自身も、製造に関わる一人として、誤解を招くような“なんとなくすごそう”な言葉に流されない視点を伝えていきたいと思っています。
気になる商品があれば、「それって本当?」「どんな根拠があるの?」と、ぜひ一緒に調べていきましょう。
知識は武器になる!
出典リスト
- 東京農工大学 プレスリリース(2025年7月16日)
植物の水吸収に対するテラヘルツ波の影響に関する研究
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2025/20250716_01.html - PubMed:Son JH. Terahertz electromagnetic interactions with biological matter and their applications.
テラヘルツ波と生体との相互作用に関する基礎研究
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19405509/ - PubMed:Bock J et al. Effects of THz radiation on human keratinocytes.
ヒト角化細胞に対するTHz波の影響に関する研究
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20681790/ - 日本の薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)
医薬的効能を標ぼうする化粧品に関する規制
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000145 - 厚生労働省:化粧品に関するQ&A(薬機法関連)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/cosme.html - 米国食品医薬品局(FDA):Cosmetics – Laws & Regulations
https://www.fda.gov/cosmetics/cosmetics-laws-regulations

